町の風景が変わってく
近所の角地に 小さな印刷屋さんがあった
この印刷屋さんは 名刺や葉書など細かい印刷と
一色刷もののチラシなどを手掛けていた
活版機械が入れてあるので 動きまわるスペースもなく
それでも表の看板だけは堂々としていて
道行く人の目印になっていた
『今から開店します』というように
朝早く シャッターを上げる音がして
機械がカッタン カッタンと
同じ調子で音を立ってて廻っていた
夫婦で毎日 インクまみれになり
インクで充満させた空間で 作業されていた
回覧版を持って行くと 奥さんの姿が見えない
旦那さんが『お母~ちゃ~ん』と呼ぶ
『は~い』と奥から声が聞こえた
その間も 機械の側で カッタン カッタン
大きな声で話さないと 聞き取れないほどだ
そういう仕事場で 夕方まで働くと
『今日はおしまい』というように
シャッターの降りる音がした
*
晩秋に近づくと 1年の掻き入れ時とばかりに
より一層 機械の音に拍車が掛けられた
年賀状依頼が多い時には それで良かったが
パソコンが普及して 企業も個人の年賀状も
段々と方向が 変わってきた
ずーとこのままで との思いとは裏腹に…
ITの波にのまれて 不景気の波にのまれて
畳むしか方法が無く もうそろそろ引き際
と 考えていたのか定かでないが…
*
それから何年か経ち 土地は更地になる
1週間のうちに ブルトーザーで家が壊されると
今まで作り上げた その場での歴史は幕を下ろし
新たにその地で 歴史がつくられる
【男はつらいよ】の印刷屋のタコ社長のように
『忙しい 忙しい』と汗を拭きつつ
『もうかりまっか』『ぼちぼちでんな』
納期に追われる話をしていた頃は セピア色になる
町にひとつはあった小さな印刷屋さんは
昔の町風景の一部であった
*
今日の一枚
(年賀状を出すポストも昭和のシンボル)
上記のイラストは
(DIGIGRA PICTURE 29~31/KIRIE系イラスト)
収録内容がすべてご覧になれます。
貴方の求めている素材が見つかりますように
♬ 新素材集も どんどん増殖中! ♬